バイオセンサー製造におけるインクジェットのいいところを考える(2)

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エレファンテック杉本です。前回は、バイオセンサー製造におけるインクジェットの具体的にいいところを考える、というテーマでお話をしました。
さて今回はひきつづきインクジェットのいいところを最新の論文などを通してご紹介したいと思います。

インクジェットプロセスで機能性タンパク質が壊れないように注意

Liら(2015) でも指摘されているのは、インクジェットのデジタルマニュファクチャリング的要素の恩恵である、オンデマンド製造のメリットです。十分な繰り返し精度と解像度が、センサーのラピッドプロトタイピングに貢献するとしています。また、この論文では前述のWangら(2012)の研究で指摘された、機能性タンパク質のDODのインクジェット印刷における、ピエゾ式とサーマル式どちらが有利かという問題と、インクジェットから高速で吐出されるときの剪断応力でインクに含まれる機能材料が壊れないかという問題に関して一つの視点を提供しています。

 まず、サーマル式インクジェットで本当に吐出時の加熱で機能性タンパク質が壊れるのかどうかという点です。著者はケースバイケースで判断すべきという考えを示してます。Viravaidya-Pasuwatら(2012) によるBSA(ウシ血清アルブミン)の印刷をサーマルインクジェットで20回連続しても問題なかった事例や、Rodaら(2000) ワサビペルオキシダーゼ(HRP)の事例でサーマル式で印刷しても機能したという事例が有るとしています。一方で、Loniniら(2008)  ではHRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)で標識したポリクローナルウサギ抗ヒトIgGは、サーマル式インクジェットで印刷した場合に目詰まりを引き起こしたが、同じタンパク質をピエゾ式インクジェットで印刷しても問題がないことを発見したという事例や、Settiら(2004) ではサーマル式インクジェットで印刷した後、β-ガラクトシダーゼ活性の15%の損失を測定したという事例があると紹介しています。
 また、Liら(2015)の論文では、剪断応力に関してDerby(2008) による、現在のDODのインクジェットプリンタの剪断速度は、(2×104)から(2×106)s-1 の範囲にあり、タンパク質を破壊する可能性があるが、極端に低い圧縮率(2.56 × 104 µm3 µs-1)でもペルオキシダーゼにダメージを与えることを発見したが、糖(トレハロースまたはグルコース)を添加することで、損傷が大幅に減少したとの報告を紹介しています。
そして、インクジェット吐出時の剪断応力の問題は、これらの生体分子のインクジェットプリントに影響を与えることができますが、適切な添加剤を使用することで、この問題を減少させることができるか、排除することができるとの考えをその論文では示しています。

Thermal_headサーマルヘッドで酵素にダメージの疑い

インクジェット印刷を用いたセンシング分子の印刷が有利な点

Liら(2015) によると、他の印刷方法と比較して、インクジェット印刷を用いたセンシング分子の印刷は、以下の理由から有利であるとしています。

  1. これは特にカーボンナノチューブ蒸着に当てはまるが、従来の蒸着法のように複雑なプロセスと高度な技術は不要である。
  2. インクジェット印刷は非接触方式であるため、汚染のリスクが低い。
  3. 材料の無駄が少なく、特に必要に応じてインクを排出するだけのDODの場合には、最小限の材料で済む。
  4. インクジェットプリンターは通常、複数のインクカートリッジと印刷ノズルを備えているため、1 台の装置で複数の感知分子を印刷することができる。
  5. プリンタは、マトリクス上での交差干渉なしに精密な空間制御を可能にする。
  6. 印刷は、異なる密度のインクを所望の領域に配置することができるグラデーションの作成を可能である。

としています。

筆者としては、
1番はエアロゾルジェットなどでも可能なので、インクジェットの良さと言うよりは材料の進化の恩恵ですが、もちろんインクジェットの良さが生きる領域のひとつなのだと理解しています。
2番3番は他の論文でも指摘されているとおりです。
4番は、弊社がバイオセンサーの印刷に進出のきっかけとなった内容と同じで、このシリーズの冒頭の記事を読んでいただけると嬉しいです。
5番は2番と4番の組み合わせで生み出せる2種のインクを一箇所に塗れる、2種のインクの線を交差させることがプロセス上容易であるということなのかなと思いました。(参考) 
6番はインクジェットの特徴で、グラデーションが描画ができるという点を生かした使い方ですね。事例になっている論文を見ると 疎水性の場所と親水性の場所を塗り分けてますが、これはあんまりグラデーションっぽくないですね。ただ、例えば疎水性か親水性かのパラメーターを疎水性の高い材料と親水性の材料をヘッドに入れておいて、どのようなミックス具合で塗るかを制御することなどはCMYKで様々な色を表現できることを考えれば想像は難くないと思います。

次回は最近の研究などもご紹介する予定です。



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