※この記事は、前後編の2回にわけてお届けしています。前編では「新しい AM 技術で勝者になるのは誰なのか」を中心にお話を伺いました。後編もアツイ展開が続きます。
(中西) 元々はAgICという会社だったときには、私が関わっていた前の材料企業をやってきたときから、導電性のそういう回路配線材料というところをやっている部門をちょっと見ていたときがあったので、そのときに企業(AgIC)のことは知っておりました。具体的にP-Flexとかそういうものに出合ったのは、やっぱりMTRL(ロフトワーク)に関わったところから一気に深くなったというのは間違いないかなとは思っています。
2018年9月にMTRL KYOTOで催されたElephantechの技術展示(写真提供:MTRL KYOTO)
(杉本) 最初に見たときってどうでしたという。怪しい感じだったと思うんですけれども。
(中西) 最初に杉本さんにお会いしたときは、自分と違う世界にいる人だなと一瞬思いましたというのがあったんですけれども。その後、工場(八丁堀本社)に行かせていただいたじゃないですか。自分もたくさんの工場ラインを見てきた感覚で言ったときに、高度なごりごりの技術を寄せ集めるのではなく、必要なところに必要な技術を必要なレベルで集めてくることによって、こんなにいろんな人が働きやすいラインというのができるんだなということに純粋に感銘を受けて、そこからは普通に製造業としての尊敬に。ベンチャーとかすごい経営者がいるということではなく。
(杉本) 製造業仲間に入れていただけた感じでしたか。
(中西) 今のイメージは、入れたというか製造業として普通に尊敬していますという感じです。
(杉本) ありがとうございます。でも、やっぱり工場の雰囲気って、結構カルチャーが出るから理解が進みますよね。
(中西) そうですね。
(杉本) ありがとうございます。実はインクジェットの話もちょっと聞いておこうという話で、これはかなり釈迦に説法的な質問ですけれども、インクジェットで製造するというのは、僕らより前に聞いたことはありましたかというのが、どっちかというと趣旨の質問なんですけれども。
(中西) なかったですね。そういうのは、具体的にものづくりの一つの型としてやっているというところは、結構少なかったなとは思ってはいて。インクジェットで有機ELディスプレイをつくったりするという技術は、ある程度知ってはいましたけれども。
(杉本) 耳にはしたことがある程度?
(中西) そうですね。感覚的には、そういう感じでしたよね。
(杉本) ありがとうございます。その上で何か一言の感想をもらえればここはいいんですけれども、P-Flexって何かどういう印象を持っていますかという。期待でもいいんですけれども。
(中西) P-Flex。
(杉本) そうです。実際インクジェットでつくっている基板についてどう思いますか。
(中西) あれをちゃんと社外に販売できる品質としてつくり上げてきているというところ自体はかなり高く評価しているという部分と、一言になって申し訳ないんですけれども、それの利用事例みたいなものもたくさんネットに上げたり、製造方法がどういうふうにSDGsに貢献できているのかみたいなところも明確に打ち出されているので、すごくストーリー性がある製品だなと。そういうものを今まで私は見てきたことがなかったので、そういう意味ではすごく新しいこんなストーリー、文脈がある製品、エレクトロニクスのパーツになりますけれども、つくれるんだというのはすごく感動しました。
(杉本) ありがとうございます。ついに量産採用のものも出てき始めていて、製造もし始めていますので今後もお役に立ちたいなと思っています。
(中西) よろしくお願いします。
(杉本) ありがとうございます。ちなみにインクジェットつながりでの質問なんですけれども、ファンクショナルプリンティングという言い方を僕らではしていて、グラフィックじゃなくて機能を印刷するという言い方をしているんですけれども、印刷してみたいものとかありますか?
(中西) 印刷をしてみたいものですか。これは結構難しい。でも、もうされているなと思ったりはしたんですけれども。要は意匠的にも優れていて機能もそこに含まれているような、そういう旧来のインクジェット印刷の魅力とこれから乗せるべきインクジェットの魅力を抱き合わせたような、そういうふうなプロダクトであったり、プロダクトにつながるマテリアルとかが生まれてきたらすごく面白いなと思っています。
(杉本) ちょっとじゃあ相談したいことがあるんで、また後で言います。
(中西) 分かりました。
(杉本) ありがとうございます。さっき結構AMの良さを言ってもらったと思うんです。材料屋として3つ、マテリアルとエンジニアリングとデザインが一体としてデザインされているというのが新しくて、それが結構パラダイムシフトにつながっていると。改めてちょっと良さと弱点というのをどう思われているのかというのを教えてほしいなと思っているんですけれども、どうですか。
(中西) 良さを言うと、物理的に拘束されている材料の限界を構造で超えることができるというのは、この技術(AM)のすごく面白いところだと思っています。マイナスの側面は、一言で言うならば実績(がない)というか(技術が発展途上の時代の)イメージというか、そういうところがあまりにもネガティブなところから入りすぎているなというのはデメリットだなと思っています。だから、大きなのはその2つですね。
従来の製造方法で作るのは難しいラティス構造を採用したAMで製造されたスニーカーのソール
(杉本) まさにこれが解決されたかも、みたいなタイミングが徐々に今来ているので。
(中西) 来ている。
(杉本) 注目がされていると思うんですけれども、そういう意味でもし1個、今ピックアップするとすれば注目のプロジェクトってありますか。
(中西) 注目しているプロジェクト。
(杉本) 今、注目したい。
(中西) 難しいですね。そういう意味合いでは、まだない気がしています。まだ旧来のパラダイムシフトを破壊するようなものが顕在化できていないので、それを一緒につくりませんかというのが多分答えになると思うんですけれども。
(杉本) なるほどね、なるほどね。
(中西) もちろんフラウンホーファー研究所とかドイツで行われている産業クラスター的なそういういろんなプロジェクトとかも注目はしていますし、ヒューレッドパッカードがデロイトでやっているエコシステムをつくるためのそういうネットワークみたいなものにも着目はしていますが、まだやっぱり旧来の考え方であったり、自分たちが売らないといけないものによる束縛を受けているような気がするので、そうじゃないものを一緒につくるチャレンジが必要なんじゃないかなと思っていますけれども。
(中西) はい、そうです、そうです。
(杉本) いっぱいやっていますよね。そうだとすると、今ちょっとだけヒントが出たんですけれども、将来AMで提供してみたい、あるいは使ってみたいサービスがあるとすれば、今一つ、旧来売らなきゃいけないものに束縛されているというコメントがありましたけれども、それも全部取っ払うとしたら、どんなのが個人的にやれたら面白いなというイメージはありますか。
(中西) やりたいのは何ですかね。オンデマンドライフじゃないけれども、自分がエレクトロニクス化したいものを自分でエレクトロニクス化するみたいな。要は例えば自分がもうテーブルをテレビにしたいんだと思ったら、テーブルを造形しながらそこにテレビをつくっていくとか、そういうところが。もちろん埋め込む部品とかはあるかもしれないですけれども、そういうものをまずつくりたいなとは思っています。
それをちゃんとESG的にといいますか、ちゃんと分解してばらばらにできるような、最近はスマホとかでも売られると思うんですけれども、そういうところもちゃんとUI的にちゃんと3DCADを簡単に使えるようなものにしてつくれたら、そういう暮らしを実現させたいなと思ってはいます。今はもう各「家電」、「車」、etc… みたいな感じじゃないですか。その界面を取っ払いたいなと思うんですね。
(杉本) でも、結構そうですよね。例えば前、2~3年前だったかな。サムソンか何かが液晶テレビには見えないおしゃれな外観の液晶テレビを出したり、あるいは他社事例ばかり出して申し訳ないですけれども、ソニーのプロジェクターが天窓からの光を出しているみたいな事例もありましたけれども、自由な使い方、結構入り口は来ているけれども、ああいうのをもっとオンデマンドにというか。
Googleのデバイスも家具との境界線をなくす展示をミラノでしていた。(2018年4月)
(中西) そうですね。
(杉本) それってやっぱりイメージとしては、ユーザーが設計するという感じなんですかね。
(中西) ユーザーの希望を取り込んで設計は第三者であってもいいとは思うんですけれども、ユーザーの希望みたいなものをちゃんと具現化できるようなツールは必要になってくるとは思います。
FABをもっとFAB LIFE的に生活にどう近づけていくのかというところのチャレンジだとは思っていて、最初は FAB CAFE みたいなところに専門的なクリエイティブであったりエンジニアみたいなのがいて、おいしいカフェを飲みながらワンオフのファニチャーなのかエレクトロニクスなのかみたいなものとかをつくって帰っていくみたいなのが一つの観点になるかなと思っていますけれども、それがどれぐらい生活によって、データのやりとりだけでどこでもつくれるというのが結構理想だと思うので、こういうことができるようなアプリケーションインターフェイスみたいなものは開発の必要性があるのかなと思ってはいます。
(杉本) その夢に結構近い状態のものかもと思って一言例として出すんですけれども、最近AREVOっていうカーボン3Dプリンターのベンチャーがあって、聞いたことがあります?
(中西) ないです。
(杉本) 住友商事さんが出資している企業のうちの一つで、ロボットアームの先っぽに(エクストルーダーが)付いているやつなんですけれども、この前自転車を売り出したんですね。クラウドファンティング今やっている、まだやっているんじゃないかな。Superstrata(スーパーストラータ)、という名前の。それはちょうどミスフィットって昔ヘルスケアのフィットビットみたいなのがあったんですけれども、それの社長だった人がたまたま知り合いで、その人が実は今、転職してAREVOのCEOになったんです。この話を聞いたら同じAMじゃんという話をしていて、せっかくなので僕も自転車を買ったんです。UIはまだこれからなんですけれども、一応どういうスタイルで乗りたいかと自分のボディーがどういうバランスでできているのかを入力すると、カーボンでフレームをオンデマンドで全部つくってくれる。
さらにそれをどう改造していきたいかというのは、「もう絶対自転車のファンでカーボンの自転車なんて買う人は、どうせばらばらにして全部自分のパーツに替えちゃうと思っています」と言っていて、電子オプションとかも付けられるので、今言った中西さんのスタイルは、ひょっとしたら自転車が一部、地域の自転車店のパーツ屋さんとかも含めたエコシステムで入れると、残されたのは結構パーツ交換の台座となるフレームが自由度がなかった部分はあると思うんです。タイヤは、いろんなサイズを選んだりとかいろいろあると思うんですけれども。それがついに最後の扉が開くのかなと思っていて、面白いかもしれませんという。
(中西) そうですね、それは面白いですね。チャレンジが自転車からというのはいいですよね。
(杉本) そうなんです。結構面白いなと思って注目しています。
(中西) なるほど。
(杉本) 良かったらぜひという。ちょっとこれで最後の質問なんですけれども、AMC(アディティブマニュファクチャリングセンター)という組織を今つくったんですけれども、いろんな人の要望に合わせてインクメーカーと対話して、ひょっとしたらそれは中西さんたちがインクメーカーであったり、あるいは基材のメーカーであったり、あるいは単なるお客さんという言い方があるんですけれども、ユーザーであることもあり得ると思うんですけれども、僕らに期待したいこととかがあったら一言お願いしますという感じです。いろいろ伺ったんですけれども。
(中西) 期待感はいろいろあるとは思っているんですけれども、われわれとしての立場で言えばおっしゃるとおりユーザーになったりとか、コラボレーターになったりとか、われわれがサプライヤーになったりとか、そういうさまざまなビジネス的な関わり合いはあるかなと思うんですけれども、この国の中で戦略的イノベーション創造プログラムとかでも何ていうんでしょう、3Dプリンティングを使った研究開発センターとか、さまざまできあがっているものの、何か今一度産業を変えるような、そういうふうな事例が出てきてないなと思っていて。
AMCに一番期待しているところは、小さくても大きくてもいいと思っているんですけれども、具体的な事例。小さくてもいいので誰かのお役立ちになっているという事例を具体的に生み出すところというのが非常に期待している部分ですし、その速度感に非常に期待します。さまざまな企業もやっていると思いますけれども、その速度感ではできないと思うので、そこがすごく。
(杉本) ありがとうございます。これは裏を返すと、これをやらないと僕らは生き残れないという、ルール上刻まれちゃっている内容なんですけれども。だから、実際われわれも事例をつくらないと、そもそももう生き残れない状況にあるので事例ファーストというわけじゃないけれども、でもやっぱりファーストなんですね。
(中西) そうです。
(杉本) それをちゃんとデプロイするというところに割と執着して、ピボットをしてでも何とかちゃんと前進させるということですね。社会での自分たちの掲げたコンセプトの証明を前進させるというのは非常にやらざるを得ないところなので。
これは最近この事例をつくるのに分かったんですけれども、どうやったらできるかという話なんです。やっぱりこれは、新しいものなんでリスクの固まりなんです。なので、これは材料企業からプリントする機械のマシンの企業。それから、ユーザーが一体となってチャレンジしないと、誰かに何か(責任)を押し付けようとすると証明が結構難しくなったりとかして、誰かがもう最初の一歩を踏めていれば実はそこから引用で、あそこでも実績があるからいろいろ広がりやすいですけれども、一発目が結構大変なんですよね。だから実は、さっき(言及されたように)ドイツでもヨーロッパでもそういう産業クラスターみたいなのをつくる流れがありましたけれども、(クラスターが必要なのは)そういう事情だと思うんです。
エンドユーザーまで巻き込んだ材料およびプロセス開発。さっき中西さんが言ったマテリアルとエンジニアリングとかデザインみたいなのを全部合体している。これは、さらにユーザーも含めたこれを同時にやらないと、なかなか進まないんだなというのを結構(感じます)。これは根本的な変化だからなんですよね。
(中西) そうですね。
(杉本) だから、まさにそれを僕らだけじゃなくて、やっぱり製造する側だけじゃなくて、お客さんとも使うユーザーたちとも一緒に考えていくというのが僕は必要というか、それがヒントなんじゃないかというふうに思っていて、そういう活動を日々開始しております。だから、そこが一つは僕らのミッション。皆さんからも期待されているというか業界に貢献できることだと思っているし、それをちゃんと発信していくということですね。やっただけじゃなくて発信していくということもやりたいと思っていますんで、そういう意味ではユーザーにもサプライヤーにもなり得る中西さんたちのチームには、今後も一緒にチャレンジしていきましょうという感じで。
(中西) それはぜひともよろしくお願いします。誰がリスクを取るのかではなくて、みんなでリスクを取ろうという環境づくりは多分必要だと思うので、その御旗もあり周辺に徐々に人が集まってきているので、流れとしてはすごくいいタイミングだと思うので、あとはここ近々の間にどうやって連発で事例みたいなものをやれるか。
(杉本) そうですね。連発が必要ですね。単発のことが多いから。そうだと思います。やっぱり連発しないと幾つかは最適解じゃなかったみたいになってなくなったりするので、やっぱり(この技術は使えない)となっちゃうから、連続でやれば幾つか成功例が積み上がると思うんで。そうなんです。結局、今は競合と言われる人たちとも手を取り合って事例をたくさんつくって業界を立ち上げるフェーズに絶対入っていくと思うので、そういうネットワークも含めて今後。この後インタビューする相手も、そういう人たちもインタビューしていっちゃおうと思ってはいるんですけれども。
(中西) いいと思います。
(杉本) 競合みたいな人たちも。ここにおいては、競合じゃなくてやっぱり仲間なんでぜひ一緒にチャレンジしていきたいと思いますし、お客さんを巻き込んで新しい世界をちゃんとつくるというか、ぜひよろしくお願いします。じゃあインタビューは、ここまでということでありがとうございました。
(中西) ありがとうございました。